『ピンハネ屋』と呼ばれて

株式会社リツアンSTC 代表取締役 野中久彰

SESや派遣はボーナスがないほうがいい。それをおすすめする理由。

賞与制度は、SESや派遣で働くエンジニアには向きません。メリットよりも、デメリットのほうが大きいからです。

 

理由については、まず、賞与は必ず支給されるものではありません。給料と違い法律で定められているわけではありません。

また、条件を満たさないと減額・不支給になることもあります。例えば、在籍要件があります。支給日の前に退職したら賞与はもらえません。査定期間もあります。査定期間に在籍していなければ賞与は満額もらえません。

 

査定期間や在籍要件については下の表で確認して下さい。

賞与や退職金制度は、終身雇用や年功序列型賃金といった日本型雇用と伴に歴史を歩んできました。例えば、賞与や退職金は、勤続年数に比例して厚遇されることは、承知のとおりです。

しかし、いまは日本の大企業のトップが、終身雇用はもう維持できないと公言している時代です。日本型賞与もそれに伴いこれからの時代にはあわない、僕はそうみております。*1

 

特に、堅実な大手企業に比べ勤続年数が短いSESや派遣社員は、賞与や退職金はメリットよりデメリットのほうが大きいです。

 

その理由を具体的に説明しますと、

まず、前提としてA君とB君がいると仮定します。

  • 賞与の有無以外、すべて同じ条件です。
  • A君には賞与がない。B君には賞与があります。
  • 請求単価は月額65万円です。
  • 給料の支払率は69%です。*2
  • 会社側が給料支給率69%と謳っているので、A君もB君も共に月に44万2千円を受け取る権利があります。
  • A君は賞与がないので、この44万2千円がまるまる月給となります。
  • B君は35万3千円が月給、残りの8万8千円を賞与原資(賞与引当金)として会社がプールするとします。
  • 残業は月24時間です。*3
  • 入社は22年4月、退社は3年後の25年3月。

図をみて頂ければわかりますが、残業代だけで年間で約20万円も違います。

 

理由は、残業手当です。

 

具体的には、時間外の割増率を掛ける「母数」が違います。

母数は、A君が時間単価:2,763円に対してB君は2,210円です。

残業単価は、A君が3,453円に対してB君は2,763円です。

B君は、賞与原資として会社にプールされた8万8千円が大きく影響し、A君より691円も安い残業単価となります。

 

これが僕がSESや派遣には賞与は向かないという理由の1つです。残業単価の差が年間で20万円もの違いになり、3年で60万円、5年で100万円、10年で200万円もの差です。考えたくもないですね。

 

リツアンのエンジニアが高年収を誇るのは、こういった所にも隠れています。

 

うがった見方をすれば、この差額がSESや派遣会社の儲けになる・・・



次に、賞与。

先ほど説明した通り賞与には在籍要件があります。賞与の支給日(月)に在籍していなければ賞与を受け取ることはできないというものです。

 

B君が退社する3年目の2024年10月から25年3月までの賞与引当金は、退職後の25年6月に支給される賞与の原資です。在籍要件があるから、B君はこの6ヶ月間の引当金を受け取ることはできません。この引当金は、SESや派遣会社の儲けになります。賞与制度の基で働くSESや派遣エンジニアは、大小ありますが、回収できない賞与引当金が必ず発生します。これが僕がSESや派遣には賞与は向かないという理由の2つ目です。

 

あとは、失業手当や傷病手当の支給の計算には、賞与を含みませんので、いざという時に支給額が少ないという点にも賞与制度のデメリットがあります。

 

以上が、賞与制度がSESや派遣で働く方には向かないと訴える理由です。賞与の有無によって、給料支払率が同じでも3年間で112万円もの収入差を生みます。

 

弊社もプロ契の変更に当たり賞与制度を導入しましたが、未払い引当金が発生しないよう退職時には全て返金致します。またプロ契約自体が残業単価でエンジニアが損する仕組みにはなっておりません。いずれにしても、弊社が設立時より賞与制度に否定的だったのは、SESや派遣のエンジニアにとって賞与は不利益だったからです。

 

また、最近、待機時の給料を全額保証する高還元率SESが増えてきました。これについて、みていきます。まず、還元率を70%と仮定いたします。前回のブログで書きましたが還元率70%と言っても、その高還元率のなかに、社会保険料の10%が含まれていれば、実質の給料支払率は60%です。

 

rstc928.hateblo.jp

 

先ほどの同じクライアント条件で、高還元率SESで働くC君をみてみましょう。

  • 給料支給率は60%。
  • 請求単価65万×60%=39万円を会社から受け取る権利があります。
  • 31万2千円が月給、残りの7万8千円を賞与原資(賞与引当金)として会社がプールするとします。
  • 残業は月24時間です。
  • 入社は22年4月、退社は3年後の25年3月。

3年間、C君が残業を毎月20時間でフル稼働しても、1年間まるまる自宅で待機しているA君の総年収には勝てません。A君のほうがまだ10万円も年収が高い。

 

これが現実なんですよね。

 

僕が何度も何度も繰り返し給料支給率が大切だと言ってきたのは、この理由からです。A君の給料支給率は69%、C君は60%。たった9%の違いですが年収で計算すると大きな差を生みます。ですから「待機時でも給料を保証する」そのワンフレーズのみで判断するのは危険です。全体を俯瞰して判断して下さい。

 

ちなみに弊社の稼働率は99.4%です。

待機になる確率は0.6%です。それだけエンジニアが不足しているんですね。2030年までにITエンジニアは79万人不足すると言われていますしね。

 

仮に契約が終了しても次はすぐに決まります。理由は、弊社の取引先企業の数とクライアントとの信頼関係です。

 

 

もちろん、仕事は給料が高い安いだけじゃありません。とくにエンジニアのようにクリエイティブな仕事は、苦労してつくりあげた作品がやっと完成したときの達成感やチームの仲間と分かち合う高揚感、そういったところに魅力があると思います。僕もエンジニアだったら年収よりもそちらの”やりがい”を絶対に優先します。

 

ただ、僕は人材会社の運営側の人間です。エンジニアへ"やりがい"のあるプロジェクトを企画することはできません。僕ができることはエンジニアの皆さんを正しく評価し、可能な限り高い年収をお支払いすることだけです。

 

待機時でも給料を全額保証とか、業界TOPクラスの高還元率とか、言葉に強いインパクトがあります。とくに社会人経験が浅い方は、そのワンフレーズを疑いもせず信じてしまいます。悪質な業者は、その若者の素直さや純粋な部分を突いてきます。彼らは、具体的な数字を示しているようで、実際にはその根拠を示していない。SESが、誰もがわかりやすく納得できる給料支給率を採用せず、社会保険料や労務費などの色々な経費を含めた還元率で自社をアピールしているのが、いい例ですね。会社を選ぶ際は、インパクトあるワンフレーズに惑わさることなく、まずは、会社を疑う、そして会社を俯瞰的にみて判断することが大切です。リツアンは、いつでも相談に乗りますよ。内勤社員(エンジニアも笑)は、性格重視で採用してますから親身に話を聞きます。

 

最後になりましたが、賞与が決算賞与のみの会社は危険です。いま増えてますけどね。賞与は、主に基本給連動型賞与と決算賞与があります。基本給連動型賞与は、夏と冬に支払われる一般的に知られているボーナスです。

 

賞与は法律で定められているわけではありませんが、労使協定や就業規則、雇用契約書である程度の拘束力を持ちます。会社側が何の理由も説明せず、今年のボーナスはゼロ円とかしないように就業規則や雇用契約書などに記載して拘束力を持たせているんですね。社長や幹部たちの暴走を防ぐために・・・(笑)

 

僕が決算賞与のみの会社は危険だと言った理由は、まず決算賞与は、会社の業績が好調なときに払われるものです。業績が振るわなかったから当然ですが支払われません。つまり、会社側の裁量枠が基本給連動型よりも断然大きいのが決算賞与です。極端なことを言ったら会社の思い通りになる賞与です。会社から社員へプレゼントする賞与と言ってもいいかもしれません。プレゼントですから、あげるも、あげないのも、会社側の自由です。

 

先日、あるSESから転職してきたエンジニアと食事をしたのですが、前職では会社に都合の良い口コミをした社員には決算賞与が手厚く、会社に意見した社員は決算賞与が減額されると話されておりました。だから、みんな決算賞与を上げるために、いい口コミを必死に書いていたと。そして、それを信じて新しい社員が入社してくる・・・

 

負の連鎖ですね。

 

繰り返しますが、夏冬の基本給連動型賞与と違い決算賞与は自由度が高く、会社側に都合のよい賞与です。決算賞与は通常、決算時期の1回だけ支払われます。先ほども述べましたが、賞与には在籍要件があります。つまり、エンジニアは、会社側にプールしている賞与引当金を回収するためには、いやいやでも決算時期まで在籍しなければ自分が損をしてしまいます。社員をつなぎとめるのには決算賞与は有効的手段です。よく考えられていますね。

 

先日も話しましたが、派遣業界は法改正で以前より健全になりました。過剰なマージンをピンハネする会社は、マージン率の公開が義務化されたおかげで淘汰されていきました。しかし、そのたぐいの会社が、いまはSESに流れているとSES業界に詳しい方から聞きました。もちろん、SESのなかにも素晴らしい企業もあります。ただ、残念ながら、そうでない会社も増えているわけです。

 

還元率の件でも、そうですがルールがない、取り締まる法律がないというのがSES業界の問題ではないでしょうか?ルールもなく各社が独自にやりたいように、やっていれば、そこで働くエンジニアが最終的には割を被りますからね。ルールをつくり、フェアに各社が切磋琢磨していき人材業界を盛り上げていきたいですね。

 

長文失礼いたしました。よんでくれてありがとう。

 

次回は、僕なりの今後の人材業界及び業界の役目についてブログを書こうと思っております。

 

追記:夏冬の基本給連動型賞与にプラスして業績賞与がある会社は魅力的ですね。社員のモチベーションは上がります。

 

 

*1:ここに脚注を書きます

*2:弊社の3年以内のエンジニアの支給率は交通費も含めて69%ですので、給料支給率を69%と致しました

*3:「openwork」が2021年12月に公表した調査結果に基づくと、2021年の平均残業時間は「24時間」です。こちらを採用いたしました。