今日は、派遣のマージンについて少し掘り下げて説明させて頂こうと思います*1
派遣料金について
まず、当然なことですが派遣会社は、派遣先企業(以下、クライアント)へ派遣料金を請求します。
この派遣料金は、時間で請求する「時給請求」の場合もあれば、月額〇〇万円と「月極請求」する場合もあります。
特にIT系のクライアントさまは、「月極請求」を好む傾向にあります。月極請求とは、1ヵ月の基本労働時間を予め月額○○万円と定めた契約で、残業などの時間外労働が発生した際は別途料金が加算されます。また、最初から予想さる残業時間を見込んだ月額○○万円、例えば1ヵ月200時間労働で○○万円といったような「込々の月極請求」などもあります。
派遣料金の「レート(単価)」については、法律などで定められたルールは存在しません。各派遣会社の裁量よって自由に決められます。
ただし、このレートの「相場」は存在します。
たとえば自動車部品の機械設計なら派遣料金は1時間当り3,500円以上~、翻訳通訳業務なら2,500円以上~、一般事務の派遣なら1,800円~2,000円程といった感じの相場があります。
この料金の相場については、厚生労働省『労働者派遣事業報告書』から知ることができます。下記の表は、弊社が『平成25年度労働者派遣事業報告書』をもとに派遣料金の相場をまとめたものです。
一般派遣の派遣料金の相場
特定派遣の派遣料金の相場
一般派遣の平均派遣料金は、1時間当たり2,127円、1日当り1万7017円、1ヵ月当り34万0340円。特定派遣の平均派遣料金は、1時間当り2,959円、1日当り2万3678円、1ヵ月当り47万3560円でした。
この表からわかるように専門性が高い職種の派遣料金の相場は高く、逆に誰でも参加できる馴染み易い職種の相場は低い結果になりました。また、同職種でも一般派遣よりも正社員(常用雇用)を派遣する特定派遣の分野のほうが相場は高い傾向にあります。
派遣賃金(給料)について
つぎに、派遣賃金、つまり派遣社員の給料の相場についてはどうでしょうか?
この給料の相場についても、『労働者派遣事業報告書』で知ることができます。下記は、事業報告書のデータをまとめたものになります。
一般派遣の給料の相場
特定派遣の給料の相場
一般派遣の平均賃金は、1時間当たり1461円、1日当り1万1688円、1ヵ月当り23万3760円。特定派遣の平均賃金は、1時間当たり1,936円、1日当り1万5492円、1ヵ月当り30万9840円でした。
派遣賃金の相場でも専門性が高い職種は高く、馴染み易い職種は低いのがわかります。また、一派派遣よりも特定派遣のほうが、こちらも相場は高い傾向にあります。
派遣のマージン率について
そして、全国平均のマージン率は、上記の派遣料金と派遣賃金から計算できます。
ちなにみ、派遣のマージン率とは、派遣料金から派遣賃金(交通費も含む)を差し引いた残りの額の割合のことを指し、以下の計算式で算出されます。
一般派遣のマージン率
特定派遣のマージン率
一般派遣の平均マージン率は、31.3%。特定派遣の平均マージン率は、34.6%でした。
高い派遣マージン率の会社≠悪徳派遣会社
ただ、マージンが高いからといって、それがそのまま悪徳派遣会社かというと、そうでもなく、マージンの中には下記のような教育訓練や福利厚生費など派遣社員に関わる会社経費も含まれています。
● 派遣社員への教育訓練費用
● 派遣社員への福利厚生費用
● 派遣社員の有給消化に関する負担費用
また、健康保険、厚生年金などの社会保険関連の経費もマージンに含まれます。あまり知られていませんが社会保険関連の費用は、労働者と会社で折半になっています。例えば、毎月のお給料から5万円の社会保険料が引かれていれば、会社も同額の5万円、つまり合計10万円を年金機構などに納めているのです。この会社が負担する5万円の費用もマージンには含まれているのです。
● 派遣会社が負担する社会保険料(厚生年金保険・健康保険)
● 派遣会社が負担する雇用保険料・労災保険料
そして、余ったマージンから派遣会社の営業マンの給料や人材の採用経費などの「会社運営費」を捻出します。
● 派遣会社の内勤社員(営業、労務、事務)の給料及び社会保険、雇用保険負担
● 人材募集に関わる広告宣伝費
● 派遣会社の事務所家賃、光熱費
● 派遣会社の営業経費(社有車、燃料費、通信費)
最後に、上記の経費を差し引いた残りの額が会社の「営業利益」になります。もちろん、この営業利益もマージンには含まれます。
● 派遣会社の利益(営業利益)
以上のようにマージンの中には、派遣社員への教育訓練や福利厚生の費用も含まれているので「高いマージン率の派遣会社=悪徳の派遣会社」かというと、そうでもありません。派遣会社が提供する教育カリキュラムがご自身のスキルアップのよい機会になっている、また派遣会社の福利厚生が充実しているなど様々な角度から総合的に判断されることをおすすめします。
本来の意味のマージンとは粗利益のこと
今回の記事の本題ですが派遣のマージンは、世間で認識されているマージンとは違います。そもそも「マージン」の本来の意味は「売上総利益(以下、粗利益)」のことをいいます。
販売価格から仕入原価(製造原価)を差し引いたもの。利幅、利ざやの意味。マージンは利幅といってもこの中には得るべき利益のほか、販売に要する人件費、運搬費、倉庫費、営業費、販売促進費、一般管理費、保険料、借入金の金利までが含まれる。一定期間における仕入原価と売価との差は、グロス・マージンで売上総利益のこと。売上総利益から販売費用と一般管理費を引いたものが営業利益となる。(コトバンク)」
しかし、派遣のマージンは「粗利益」のことではありません。単純に派遣料金(請求額)から派遣賃金(派遣社員給料)を差し引いた残りの額です。
もし、世間で認識されている本来のマージンを知ろうとすれば、派遣賃金に社会保険料、雇用保険料などの会社負担部の経費も加えて計算しなければなりません。
本来のマージンとは=派遣料金-労務費(派遣賃金+社保、雇用保険負担額)
私は、ここに派遣のマージンの問題を複雑にしている原因があると思っています。
多くの方は、マージンを派遣会社の「儲け」だと誤解しています。ただ、これまでみてきた通り派遣のマージンには、派遣会社の儲けだけではなく、派遣社員に関わる経費も含まれいるのです。
そして、多くの人が派遣の「マージンの問題」を口にするさい、低い年収で生活に苦しんでいる派遣社員へその一部を還元しなさい。派遣会社は、マージンを3割も、4割もピンハネして儲けているのに、派遣社員にちっとも還元しない!ブラックだ!けしからん!ということになります。
もちろん、そういった意見に私のような自らが派遣業を営む者が反論する資格はありません。それは重々承知したうえで、ただ、派遣社員へ会社利益を還元する原資としてのマージンを知るには、派遣料金から派遣賃金を単純に差し引いた現状の派遣マージンではなく、派遣料金から労務費を差し引いた本来の意味でのマージンを知ってほしい。その派遣社員へ還元可能な本来の儲けとしてのマージンを知ったうえで、この問題を論じてもらいたいと思っているのです。
本来のマージン率を計算してみると
では、本来の儲けとしてのマージンはどのくらになるのでしょうか?これについては、弊社の実際のデータをもとにご説明いたします。
下記の表は、弊社の昨年の実績(2014年9月~2015年8月)です。
上記の表は、派遣社員一人当たりの数値です。
❶ 年間の平均売上高は、64万4408円でした。
❷ これに対して派遣社員の給料は、48万5423円
➌ 派遣のマージン率は、24.7%
➍ 社会保険などの会社負担額は、6万1486円
❺ 派遣社員の給料と社保負担額を足した労務費は、54万6910円
➏ 売上高から労務費を差し引いた営業利益は、9万7499円
➐ つまり、本来の「儲け」としてのマージン率は、15.1%となります。
本来のマージンは、派遣のマージンよりも10%ほど低い値になっています。派遣料金によって多少の変動はしますが、社会保険料や雇用保険料などの会社負担額は、売上高に対して10%ほどだとみてよいかと思います。なので、派遣会社が公開しているマージン率から10%ほどを差し引いた値が、派遣社員へ給料として還元可能な儲けとしてのマージン率となります。
ちなみに、各派遣会社のマージン率については、個人的にも親しくしている「楊月秘話」さんの「人材派遣業界のマージン率とそのデータ2016年版」の記事で詳しく紹介されています。調査した派遣会社は、なんと579社、調査した事業所数は1082拠点。ご興味がる方はのぞいてみてあげて下さい。
派遣のマージン率の問題についての私的な意見
私自身は「派遣マージンの問題」について、世間が「比率」にこだわりすぎている風潮に少し危機感をいだいています。マージン率とは派遣料金の中で、マージンがどれくらい占めるかをあらわしただけの比率です。マージン率が30%なら適性で、40%なら不適正というような簡略的な問題ではありません。
たとえば、A君とB君がいたとして。A君は専門性の高いエンジニアの職種、だから派遣料金も高く1時間当たり4,000円。一方で事務の仕事をしているB君は派遣料金が1,800円だとします。マージン率は同じ30%。しかし、下記の通りA君とB君の「マージンの額」は、1ヵ月当り10万円以上も違います。
● A君=4,000円×30%×20日出勤×8時間労働=192,000円
● B君=1,800円×30%×20日出勤×8時間労働= 86,400円
▶ 192,000円-86,400円=105,600円の差になる
1ヵ月で10万円以上の開きですから、年間では120万円以上もの差になります。マージン率は同じ30%、でも、それを金額に置き換えれば年間で120万円もの差です。ここにマージン率という比率を重視する危険性があります。
比率よりも金額。毎月、派遣会社から中抜きされているマージン額が果たして適正か?比率ではなく金額そのものに注目すべきです。仮にマージン額が高くても、派遣会社が提供する教育訓練や福利厚生が満足いくのであれば問題ありません。派遣社員のスキルアップやキャリアアップの場に派遣会社がなっているのであれば、多少マージン額が高くても目をつぶることもできます。
ただ、マージン率という比率だけでは、その判断はできません。マージン率が〇〇%だから低い、〇〇%だから高いとかではなく、労働対価から中抜きしている派遣会社のマージン額の公開、それがいま求められていることだと思います。
また、現行の派遣法で義務化されているマージン率の公開は、個々人の情報ではなくあくまでも会社(事業所)の算術「平均」です。算術平均とは、個々の値を足し合わせてその個数で割ったものにすぎず、派遣社員間で不公平をうんでしまいます。
たとえば、A君のマージン率は50%、B君は30%、C君は10%。でも、会社全体の平均を算出すればマージン率は30%。これでは多くのマージン率を取られているA君は不公平です。そして、残念なことに、このようなケースは往々にしてあるのです。
なので私の個人的な意見としては、派遣のマージンの問題を比率ではなくマージン額で、そしてマージンを会社平均ではなく個々人の数値で示すべきだと思います。派遣料金、それに対する派遣賃金、その他労務費、会社利益の情報を雇用契約書等に掲載して、派遣社員がその情報をもとに最適な派遣会社を選択できる仕組みをつくるべきだと思います。
私的な意見のまとめ● マージン率という比率ではなく、マージン額という金額で判断すべき
● 会社全体のマージン率ではなく、派遣社員個々人の数字を示すべき
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*1:2016年6月1日によく読まれている、こちらの記事の内容を修正追加させて頂きました