『ピンハネ屋』と呼ばれて

株式会社リツアンSTC 代表取締役 野中久彰

高還元率のSESについて。

 

最近、高還元率を謳うSES企業が増えた。

 

喜ばしいことだと思った。

 

マージンを過剰に取る人材会社が淘汰される。

 

人材業界のイメージが全体的に良くなる。

 

先日、興味がわいたので高還元率のSESを少し調べてみた。

 

実態は違っていた。

 

僕は還元率を「単価×給料支払率」だと思っていた。

 

しかし、SESが言う還元率は給料支払率ではなかった。

 

SESが言う還元率には、いろいろな経費が含まれていた。健康保険、厚生年金、雇用保険などの社会保険料や業務上で発生する諸経費など。*1

 

そして、驚いたことは・・・

還元率についての決まりごとはないらしい。

 

どの経費を還元率に詰め込むかは、各SESが独自に決めているという。

 

つまり、やろうと思えば、どうにだってなる。給料が安いSESでも、様々な経費を詰め込めれば一瞬で高還元率SESに変わる。

 

本来、ルールがなければ比較することはできない。基準があるから、早い遅い、重い軽い、高い低いは比較することができる。

 

では、SESは何を根拠に自社を「高還元率」と言っているのか?

 

わからない。

 

例えば、高還元率70%のSESがあったとする。

 

還元率に社会保険料のみ含めていれば、僕の計算では給料支払率は60%程度だ。*2

 

これは、IT派遣の平均的な給料支給率と変わらない。*3

 

さらに、この社会保険料にプラスして、還元率に諸経費も含めているのであれば、IT派遣の平均以下の給料支給率になる。

 

*上記のIT派遣の平均給料支払率は、無期雇用の派遣、つまりSESのエンジニアと同じ正社員雇用のデータ。

 

もちろん給料支給率が高い会社だけがいいわけではない。給料支給率が低くても、社内研修が充実している会社に魅力を感じる人もいる。マージン率が高くても、高い単価で高い平均年収を誇る会社もある。

 

ただ、高還元率と謳いながらも、給料支給率は平均か、それ以下のSESは問題である。給料支給率を高く装う為に、いろいろな経費を還元率に加えているように僕にはみえてしまう。求人サイトなどで、エンジニアを場価値以上の高い給料で採用しますよと言いながら、実際には買いたたいた安い給料で採用しているのであれば、やはり問題である。

 

派遣業界は2012年の法改正でマージン率の公開が義務化された。これにより派遣業界は以前よりも健全になった。過剰なマージンを取る会社は公になり淘汰されたからだ。

 

だが、SESは改正派遣法の縛りを受けない。マージン率を公開する義務がない。法律の抜け穴がある。10年前の派遣業界のような、そこが労働者から過剰な中間搾取をうむ温床になっているのかもしれない。

 

エンジニア第一主義と公言するのであれば、いくらでも偽装できる還元率ではなく、明確なデータに基づいた「マージン率」「給料支給率」「平均年収」でSESはエンジニアへ訴求するべきである。

 

われわれ、SESや派遣会社はエンジニアが働いた労働対価が収益源である。であれば、エンジニアの給料には最低でも誠実であってほしいと。

 

一緒に人材業界をクリーンにしていきませんか?

 

さらば青春の光×大学生 制作の株式会社リツアンSTC CM


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*1:

社会保険料は会社と社員で折半する。例えば、毎月の給料明細で健康保険や厚生年金などの社会保険料が合計5万円引かれているとすると、会社も同額の5万円を負担して計10万円を日本年金機構へ納めている。つまり、この5万円がSESの言う還元率に含まれる。

*2:社会保険料の会社負担分は、およそ単価に対する10%~12%ほどです。

*3:

令和元年 厚生労働省『労働者派遣事業報告書』無期雇用(正社員)のソフトウエア技術者のデータより筆者が計算。一日当りの派遣料金(32,245円)  ÷ 一日当りの派遣賃金(19,760)=61%